クリーム色の背景に、小さな「POGOシリーズ 第4回」のラベルとタイトル「POGO禁止後に残ったものとは。帰れない外国人9,000人超、住宅街の詐欺拠点にはその10倍の可能性も」。右側には、水面の上に住宅街がのった氷山と、その上を飛ぶ飛行機の線画

POGO禁止後に残ったものとは。帰れない外国人9,000人超、住宅街の詐欺拠点にはその10倍の可能性も

POGO(フィリピンのオフショア賭博事業者)は禁止され、免許はゼロになりました。しかし人は消えませんでした。帰れない中国人が数千人残り、拠点は住宅街の小さな家に散り、フィリピン人は海外の詐欺拠点へ送り出されました。運営の一部はカンボジアなど国外に移ったと、当局は説明しています。

日本人もその先にいます。ただ、フィリピンで確認できる日本人の事件は、カンボジアに比べると少数です。

禁止のあとに残った人

2024年7月22日、マルコス大統領が施政方針演説で禁止を宣言しました。11月5日の大統領令74号で、年内の完全停止が決まります。PAGCOR(フィリピン娯楽賭博公社)は12月31日に、免許42とサービス提供者18の免許をすべて取り消し、304か所を閉鎖しました(PNA)。2025年10月23日に署名された共和国法12312号で、禁止は恒久になり、違反には最長12年の懲役と最大₱5,000万の罰金が科されます(Inquirer)。

では、働いていた人はどうなったのか。入国管理局(BI)によると、登録されていたPOGO労働者33,000人のうち、2025年2月の時点で11,254人が国内に残っていました。送還は121人、逮捕は518人、自首は45人です(ABS-CBN)。

2025年6月9日、PAOCC(大統領府の組織犯罪対策委員会)の事務局長は下院で、不法な外国人労働者が9,000人超、いまも国内にいると述べました。収容施設は過密で、収容中の640人超の多くは旅券がなく送還できません。この約9,000人への摘発は一時停止されました(ABS-CBN)。

帰れない理由

POGOで働いた外国人は旅券を取り上げられ、国中に散らばっていると、事務局長は説明しました。大使館に旅券がないと追い返されるので、PAOCCに助けを求めて来る人もいます(同じABS-CBN)。

航空券の金がない人もいます。2025年7月、PAGCORは送還の費用として₱5,000万(2026年10月29日のレートで約1億2,380万円)をBIに出しました(Philstar)。さらに、中国に戻ることを怖がる人もいます。2025年4月に中国へ送還された84人は、現地で当局の調べを受けました。事務局長によると、中国では被害者として扱われず刑事事件の対象になり得るので、帰国を恐れている人がいます(Philstar)。

全員が重大な犯罪者とは限りません。ガチャリアン上院議員は、恋人や子どもがいて残っているだけの人もいると述べています(Inquirer)。送還も続いています。BIは2025年に、2月に98人、4月に84人、6月に100人、9月に91人の中国人を送還しました。

それでも、残っている人の数はわかりません。元PAOCC報道官は2026年10月、同年2〜10月に摘発された外国人のPOGOと詐欺拠点の関係者は509人で、多くは中国人だと述べました。ただし実際の人数の10%に満たない可能性があり、彼らは出国せず、レーダーの下に隠れただけだとも話しています。元職員の推計で、公式の統計ではありません(ABS-CBN)。

大きな拠点から、住宅街の小さな家へ

禁止後、拠点は小さくなりました。法務省は2024年10月、高級住宅地アヤラ・アラバン・ビレッジ(ムンティンルパ市)の摘発について、大きな拠点から住宅地の小グループへの縮小は禁止後の「自然な傾向」で、国を出る前の「最後のあがき」だと説明しました(Inquirer)。PAGCORは、以前はいつでも検査できたが、いまは市町村や建物の管理者との調整が必要で制限がある、と上院で話しています(PNA)。

Rapplerは貸す側の事情も伝えています。この住宅地の家は寝室1室で₱10万、5LDKで月₱50万(約124万円)の現金でした。通常の相場は₱25万です。最初は家族として借り、数か月後に40〜50人のスタッフハウスになり、注意されると隣の家を借りた、といいます(Rappler)。PAOCCの事務局長は、小規模な拠点は20〜50人が2部屋を借りる形だと説明しています(Inquirer)。

2025〜26年に報じられた主な摘発です。

時期 場所 内容
2025年7月 セブ州マンダウエ市、住宅地の中 中国人9人を人身取引の疑いで逮捕。フィリピン人の労働者も、本人の意思に反して拘束されていた(GMA)
2025年11月 カビテ州バコール市、一般住宅 中国人8人を逮捕(Tribune)
2026年2月 ムンティンルパ市 中国人8人を逮捕。被害者の中国人男性が約2週間監禁され、電気ショックを受けた(Philstar)
2026年3月 ラグナ州サン・ペドロ市、住宅地の中 フィリピン人30人超を逮捕。コールセンターを装い、米国の高齢者を狙っていた(ABS-CBN)
2026年4月 パラニャーケ市、コンドミニアム 48人を逮捕。41人がフィリピン人女性で、ロマンス詐欺と暗号資産の投資詐欺(Philstar)
2026年4月 パンパンガ州アンヘレス市、住宅 中国人3人を逮捕。NBI(国家捜査局)の長官は小規模な「キッチン型」と呼び、元の大規模POGOから分かれた組だと説明した(GMA)
2026年10月初め サンボアンガ・シブガイ州 外国人244人を逮捕。禁止後で最大の摘発。携帯電話約3,000台を押収(Inquirer)
2026年10月12日 ケソン市 中国人74人とミャンマー人2人の計76人を逮捕(Manila Times)

フィリピン人の元従業員が独立する例も出ています。警察のサイバー犯罪対策部門(PNP-ACG)の局長は2025年6月、最近捕まったサイバー犯罪者の多くは元POGO従業員で、独立して動いており、もうPOGOとの関連とは言えないと述べました。情報通信技術省(DICT)の長官は、仕事を失った人が金融犯罪やハッキングに転じても驚かないと話しています(ABS-CBN)。国内の小さな拠点がどうやって人を集めているのかは、報道には出ていません。

フィリピン人は、海外へ送られる

人の動きは国外にも向かっています。BIの報道官は2025年2月、POGO側が一部のコールセンター従業員に金を渡して「ブランド・アンバサダー」にし、仲間のBPO(業務の外部委託)勤務者を海外の拠点に誘わせていると説明しました。月給は₱50,000(約12万円)と告げます。タイに観光客として入り、国境を越えてカンボジアやミャンマー、ラオスへ運ばれます。着くと旅券を取り上げられ、出るには約₱40万(約99万円)の解放金が要る、つまり債務奴隷だと報道官は話しました(同じABS-CBN)。

海外から戻った人数も出ています。移住労働者省によると、2024年からの2年で1,454人が帰国しました(カンボジア376、ラオス399、ミャンマー764)(Philstar)。2026年1〜7月は1,293人で、89%が犯罪を強制されていました(UCA News)。

拠点はカンボジアへ

カンボジアの詐欺拠点も中国人向けのカジノと合法のオンライン賭博から始まりました。2019年にカンボジアが中国の圧力でオンライン賭博を禁じ、コロナで客が来なくなると、カジノ街の建物が詐欺の拠点に変わっていった、とGI-TOCは分析しています(GI-TOC)。

フィリピンの禁止後、PAOCCは2025年2月に、一部の不法なPOGOの労働者がカンボジアなどに出て運営を再開する動きがあると説明しました(abogado.com.ph)。どの拠点にどれだけ移ったのかを示す数字はありません。国連薬物犯罪事務所(UNODC)は2025年4月、東・東南アジアの詐欺拠点産業の年間の利益を約400億ドル弱とし、取り締まりを受けて「がんのように」周りに広がっていると書きました(UNODC)。

日本人も、そこにいた

警察庁の警察白書はトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)を次のように説明しています。SNSなどで「高額バイト」と募った実行役を使い捨てにし、応募者の個人情報を握って脅して従わせる犯罪グループです(警察白書)。

海外に目を向けると、警察庁によると、闇バイトに応募して警察に保護された事案は、2024年10月〜2025年11月で544件です。かけ子を指示されたケースのほとんどが、カンボジアなど海外の拠点への勧誘でした(日テレNNN)。2025年5月、カンボジアのポイペトで日本人29人が確保され、8月に日本へ移送されて逮捕されました。帰国した人の供述として、殴る蹴る、ナイフで腕を切る、爪を剥がすといった暴力が報じられています。拠点での報酬は生活費などに消え、帰国時の所持金は多くても約2,700円で、多くは借金の返済が目的だったといいます(読売新聞、日本経済新聞)。2026年6月には、警察庁の幹部がカンボジアに数十人単位の日本人行方不明者がいるのではないかと説明しています(朝日新聞)。

警察庁の集計では、2025年に海外の拠点が外国当局に摘発され、日本に移送されて検挙された人は54人です。内訳はカンボジア32人、フィリピン9人、マレーシア7人、タイ6人で、フィリピンの9人の罪名は窃盗でした(警察庁)。

海外の拠点から日本へ移送された人、国別

フィリピンで確認できる事件の1つが「JPドラゴン」です。福岡県警の捜査によると、ブラカン州の2階建ての住宅(通称ピンクハウス)から警察官を装って日本に電話をかけていました。押収した約20万人分の名簿は80歳以上ばかりで、活動時間は警察の窓口が開いている午前9時から夕方まででした(読売新聞)。BIは2025年5月にこの組織の6人を拘束し、9月に送還しています(BI)。

2026年2月には、パンパンガ州アンヘレス市で日本人3人と中国人1人が逮捕されました。きっかけは日本大使館への情報です。クラークの詐欺拠点から日本人2人が逃げ出して大使館に助けを求め、カンボジアの拠点で働いていた10人のうち5人が、中国人の手引きでカンボジアからクラークに移ったといいます。逮捕された4人は詐欺への関与は認め、誘拐と恐喝は否認しました(Inquirer、BI)。誰を標的にしていたのかは、報道には書かれていません。中国系の元POGOの拠点が日本人を狙っている、という報道も見つかりませんでした。

帰れない人たち

海外の拠点で働かされていた人の供述が、警察庁の資料に載っています。パスポートとスマホを取り上げられ、帰るなら数百万払えと言われた、という供述があります。詐欺をやりたくないと言うと、臓器を売る、家族を殺すと脅された、という供述もあります。ミスをすると暴力を受け、ひどいときはアルコールをかけられて火をつけられた、という供述もあります。外務省も2026年5月、海外の闇バイトで、旅券とスマホを取り上げられ、拠点から長期間逃げ出せなくなる例は少なくないと警告しています(外務省)。

フィリピンのポラックの拠点では2024年6月、殴られる動画が出た男性が亡くなったという報告をPAOCCが受けています(Inquirer)。日本人が亡くなった事例は、フィリピンでもカンボジアでも確認できませんでした。強制送還で国に戻れた人も、大勢います。

それでもフィリピンには、旅券がなく、帰れば罪に問われるかもしれず、航空券を買う金もない人たちがいます。その一部はいまも誰かをだまさなければ食べていけないのではないか。そして、捕まるか命を落とすまで帰れない人が、この国のどこかにいるのではないか。確かめられる統計はありません。ただ、私はそう思います。