クリーム色の背景に、小さな「POGOシリーズ 第1回」のラベルとタイトル「中国では違法の賭場を、中国人向けにフィリピンに作った。中国共産党は怒り、習近平は…」。右側には、ルーレット、カジノチップ、サイコロ、トランプ、赤い提灯と中国風の屋根の線画

中国では違法の賭場を、中国人向けにフィリピンに作った。中国共産党は怒り、習近平は…

POGO(フィリピンのオフショア賭博事業者)は、中国で賭博が禁止されているから生まれた商売です。海外の客だけを相手にするオンラインカジノで、その客の多くが中国人でした。

習近平国家主席は2019年、フィリピンの大統領にこの商売の話をしています。ただし言葉は思ったより丁寧でした。

隣町の国営カジノ街

マニラ首都圏のパラニャーケに「Entertainment City(エンターテインメント・シティ)」というカジノ街があります。マニラ湾沿いの100ヘクタールで、進出する会社には1社あたり10億ドル以上の投資が条件でした。Solaireは2013年3月、City of Dreams Manilaは2015年2月に開業しています。

管理するのはPAGCOR(フィリピン娯楽賭博公社)です。1977年にできた国営会社で、役目は賭博の規制、政府の財源づくり、観光振興の3つです(会計検査院の報告)。規制する役と稼ぐ役を、同じ会社が持っています。

オンライン賭博もPOGOより前からありました。北部のカガヤン経済特区(CEZA)が2003年から、外国人専用のオンライン賭博の免許を出しています。課税は賭けの粗利の2%で(当時の発表)、2007年には43免許に達しました。

中国で閉まった客と、POGOの急増

2016年、中国は海外での賭博の取り締まりを強めていました。ロイターはマカオを叩けば別の場所に出てくると書いています。サイパン、フィリピン、カンボジア、オーストラリアです。マニラのSolaireは2016年7〜9月期のVIPの賭け金が61%増え、VIP客の約半分が中国人でした(Reuters)。

同じ2016年の8月、PAGCORはPOGOの規則を作り、9月に新しい賭博の種類として承認します(Inquirer)。当時の会長はそれ以前から無免許のオフショア賭博が約8万人規模で動いていたと説明しました。無免許のものを免許制にして管理下に置いた、という話です(PAGCORの広報誌)。

数字は急に増えます。PAGCORの会長は2016〜2018年にPOGOが約₱119億(2026年10月29日のレートで約295億円)の収益をもたらしたと話しました。2019年8月には免許が58、従業員は13万人超です(同じInquirerの記事)。

労働雇用省によると、2019年12月のPOGO関連の労働者は118,239人で、82%が外国人です。外国人の就労許可は2018年の21,320件から、2019年は111,583件になりました(BusinessWorld)。メトロマニラのPOGOのオフィス需要も、2016年から2019年で11倍です(BusinessWorld)。

POGOのオフィス需要と外国人就労許可の増え方

客は誰だったのか。中国大使館は2019年8月8日の声明で、フィリピンの実店舗のカジノとオンライン賭博会社の多くが、中国人を主な客にしていると述べました(新華社)。

習近平政権の怒り

最初から険悪だったわけではありません。2017年4月には、中国とフィリピンの当局が共同で、フィリピンから運営されていた違法サイト4つを摘発し、99人を逮捕しています(Reuters)。

流れが変わるのは2019年です。7月、中国の公安部長が海外カジノの客引きや地下銀行を潰す「断鏈」特別行動を指示しました(中国政府網)。8月4日には在フィリピン大使館がPOGOで働かないよう中国人に呼びかけ、賭博関連の犯罪を「地元社会の公害」と呼んでいます(中新網)。

8月29日の北京での会談では、習近平主席が新規免許の停止を評価したうえで、完全に止まればさらにありがたい、と話しました。フィリピン大統領府の報道官の説明です。理由は、中国で賭博は違法で、客の大半は中国人で、資金洗浄などの犯罪も起きるから、でした(Philstar)。報道官は正式な要請ではなく、暗に求められたという言い方をしました。財務長官はただのコメントだったと受け止めています(Inquirer)。

ドゥテルテ大統領は9月4日、禁止を断りました。雇用が足りなければこんなことは許さなかったが、国の利益のために必要だと自分が決める、という趣旨です(Al Jazeera)。

中国は言葉より行動で動きます。2020年2月には海外で長期に詐欺をした疑いのある中国人を出国禁止にしたと、在フィリピン大使館が認めました(大使館)。PAGCORはPOGOなどで不法に働く中国人7万人のうち、少なくとも2,000人が2019年1月以降に送還されたと発表しました(Inquirer)。2020年8月には文化観光省などが、賭博ツアーの目的地の「ブラックリスト」を作ると発表しています(Global Times)。

中国政府の動き(2019〜2021年)

フィリピンがPOGOの禁止を決めたのは、それから5年後の2024年7月でした(Philstar)。

言葉は丁寧、法律は最長10年

2020年12月26日、中国は刑法の改正(第11次)を公布しました。公布の文書に署名したのは習近平主席です(中国人大網)。

2021年3月1日の施行で、中国人を海外の賭博に組織すると最長5年、重い場合は5年以上10年以下の懲役です。オンラインで中国人を海外賭博に参加させる行為も対象に含まれます(最高人民検察院)。

習近平主席本人の言葉は、大統領府の説明では「完全に止まればさらにありがたい」でした。署名した法律は最長10年の懲役です。大激怒を礼儀正しく書くとこうなるのだと、私は受け取りました。