クリーム色の背景に、タイトル「1日240円で"貧困ではない"国。物価は東京の6割、ペソは弱く、政府の基準は狂っている」。右側には、考え込む男性、円札の束、ペソの硬貨、折れ曲がった定規の線画

1日240円で"貧困ではない"国。物価は東京の6割、ペソは弱く、政府の基準は狂っている

私はフィリピンのラスピニャスで暮らす、AIエンジニアです。収入は日本円で、支払いはペソです。

円で稼いでペソで使う身には、この国の物価がよく見えます。もう「安い国」とは呼べません。

マニラの物価は、東京の6割

Numbeo(利用者の投稿で世界の物価を集めたサイト)の2026年10月の値では、マニラの生活費は東京の63%です。家賃を除いた数字です。

ただし利用者の投稿が元なので、あくまで目安です。マニラの投稿者は過去12か月で76人でした。

食料品は65%、外食は69%、家賃は59%でした。半値より高く、およそ6割です。

世界銀行の2025年のデータでも、国全体の物価水準は日本の約51%です。安いけれど、極端に安いわけではありません。

東京とマニラの物価と購買力の比較

「物価が安いから、お金が余る国」という見方は、もう古いと私は感じています。

ペソは弱く、暮らしは重い

ペソも弱くなりました。1ドルは2025年の平均で57.5ペソでしたが、いまは63.8ペソです。

ビッグマック指数(同じ商品の値段で通貨の強さを比べる指標)の2026年7月の値でも、ペソは円より割安でした。日本は500円、フィリピンは約420円です。ドルに直すと、3.08ドルと2.74ドルです。

それなのに、暮らしは軽くなっていません。9月の物価上昇率は日本が2.1%、フィリピンは7.2%です。

とくに上がったのは、交通費の14.6%と、住居と光熱費の8.4%です。食品も6.7%上がりました。

物価が6割でも、現地の収入で買える量は東京の約27%にとどまります。円の収入がある私は、その外側にいます。

1日240円で「貧困ではない」

では、政府は貧困をどう測っているのでしょう。PSA(フィリピン統計庁)の2025年の貧困ラインは、5人家族で月約3万6千円です。

1人1日にすると約240円です。ビッグマック1個の値段にも届きません。

この基準で、貧困率は過去最低の9.7%(家族では6.4%)になりました。貧困層とされる人は2023年の1,750万人から2025年の1,100万人に減っています。

ところが、人々の実感は逆です。SWS(民間の世論調査機関)の2026年9月の調査では、55%の家族が自分を貧しいと答えています。

公式の家族の貧困率6.4%とは8倍以上の開きです。

OCTA(別の調査会社)の7月の調査でも39%です。食べ物が貧しいと答えた家族は44%、飢えを経験した家族は22.6%でした。

シンクタンクのIBONはこの基準を「非現実的に低い」と批判しました。

公式の貧困率、最低賃金、人々の答えの比較

最低賃金と並べると、基準の低さがよくわかります。首都圏の最低賃金は9月26日から日給約1,870円です。

時給にすると約230円で、1時間働けば、1人の1日分の貧困ラインに届きます。

最低賃金で働く人が1人いて、月に26日働けば約4万9千円です。それだけで5人家族は統計上「貧困ではない」ことになります。

ものさしを握る人たちの月給

この貧困ラインは、法律に基づいて経済計画開発省がPSAを通じて決める数字です。その政府の側にいる国会議員の基本給は、月約73万円からです。

貧困ライン20家族分で、最低賃金で働く人の月収の約15倍です。手当は含みません。

資産も桁が違います。上院議員24人の申告資産(SALN、公務員の財産公開書類)は、最も少ない人でも約4,700万円です。最も多い人は約31億円でした。

議員の基本給と貧困ラインの比較

その国で、2025年に洪水対策事業の不正が明るみに出ました。きっかけは死者も出た豪雨と洪水でした。

9月21日にはマニラで大規模な抗議デモ「Trillion Peso March」が開かれています。

マニラ市の発表では、ルネタ公園だけで少なくとも4万9千人が集まりました。

2022年以降の洪水対策費は約1.3兆円です。そのうち、存在しない「幽霊事業」や手抜き工事の疑いが指摘されています。

マルコス大統領はこの予算のうち約2,500億円を、わずか15社の建設業者が握っていたと述べました。

財務省は経済の損失を最大で約2,900億円と見積もりました。公共工事が止まった影響で、2025年の成長率も約1.1ポイント下がったと、経済計画開発省は説明しています。

大統領は独立調査委員会(ICI)を設け、調査を命じました。委員会は2026年3月で活動を終えています。

オンブズマン(汚職を訴追する政府機関)は、2026年10月までに39件を起訴しています。被告52人には、上院議員と下院議員が含まれます。

現職の上院議員1人は約14億円の見返りを受け取った疑いで起訴されました。本人は疑惑を否定しています。

起訴状によると、前下院議長ら2人は、少なくとも約184億円の見返りを受け取った疑いです。有罪は確定していません。

1日240円を「貧困ではない」と数える国で、議員の基本給は月73万円からです。

狂っているのは目盛りより先に、ものさしを握る人の金銭感覚ではないか、と私は思います。