AIのスキルは手順書か、プロの振る舞いか。Agent Skills寄贈で考えたこと
AIに仕事のやり方を教える規格「Agent Skills」を、Anthropic(Claudeを開発している会社)が業界の財団に寄贈しました。善意だけでなく、戦略もあるはずです。そして、スキルが資産かと聞かれても、私はすぐには「はい」と言えません。ただ、スキルを手順書として読むか、プロの振る舞いとして読むかで、答えは変わると考えています。
Agent Skills が財団に移った
Anthropicは10月22日、Agent Skillsを Agentic AI Foundation(AAIF)に寄贈したと発表しました。AAIFはLinuxなどのオープンソースを支える非営利団体 Linux Foundation の傘下にある財団です。寄贈したのは規格そのものと、名前とロゴ、GitHubの組織、agentskills.io のドメインです。
AAIFは2025年12月に、Anthropic、Block、OpenAIの3社が中心になって立ち上げました。最初のプロジェクトはAIと外部のツールやデータをつなぐ規格のMCP(Model Context Protocol)、Blockの goose、OpenAIの AGENTS.md の3つでした。同じ日にOpenAI、Hugging Face、Alibabaもそれぞれプロジェクトを寄贈し、AAIFのプロジェクトは10件になりました。
Anthropicの開発者向けアカウント ClaudeDevs の投稿によると、今後は Anthropic、Earendil(Pi)、Google、Microsoft、OpenAI、OpenCode のエンジニアによる技術運営委員会で運営されます。OpenCode は、私が毎日コードを書かせている opencode を作っているところです。
スキルの中身はフォルダとMarkdown
仕様を見ると、スキルの作りはかなり素朴です。1つのスキルは1つのフォルダで、その中に SKILL.md というMarkdownファイルを置きます。ファイルの先頭にはfrontmatter(ファイル冒頭に書く設定情報)があり、name(名前)と description(何をするスキルで、いつ使うか)の2つが必須です。
AIはまず全部のスキルの名前と説明だけを読み込み、使うと決めたときに本文を、必要になったときに添付のスクリプトや資料を読みます。最初に読む量はスキル1つあたり100トークンほど(トークンはAIが文章を数える単位)です。
Anthropicによると、Agent Skills はClaude Code(Anthropicのコーディング用AI)を作る中で生まれました。2025年10月に公開し、12月にオープンな規格として切り出しています。今では ChatGPT や Cursor、GitHub Copilot、VS Code など70以上のサービスが対応し、公開されたスキルは100万件、インストールは約2億8千万回だそうです。Claude Codeの生みの親である Boris Cherny さんも、「Claude Code の実験から始まった」と書いています。
善意だけのわけがない
なぜ手放したのか。今の彼らに善意があったとしても、戦略がないわけがない、と私は思っています。
Anthropicは6月1日に、IPO(株式の新規上場)に向けた届出書の草案を、SEC(米国証券取引委員会)に非公開で提出しています。11月中旬の上場を目指しているとも報じられています。そういう時期に、広く使われている規格を自社の外に出したわけです。何を狙っているのかまでは分かりませんが、偶然のタイミングだとも思いません。
スキルは資産なのか
では、使う側にとってスキルは資産なのか。正直、難しいところです。スキル自体のメンテナンスが必要なので、必ずしも資産とは言えません。モデルの進化で要らなくなるものもあります。
手順書として読むか、プロの振る舞いとして読むか
ここで、スキルを手順書として読むか、プロの振る舞いとして読むかで、話が分かれると気づきました。
手順書として読むと、スキルは「この作業はこのコマンドで、この順番でやる」という知識です。これはモデルが賢くなるほど、書かなくても自分でできるようになります。いずれ要らなくなるのは、こちらのスキルです。
プロの振る舞いとして読むと、スキルは「何を大事にするか」「何を絶対にしないか」という判断の集まりになります。これは、その人や状況に固有のものなので、モデルがいくら進化しても自分では知りようがありません。そして、振る舞いは人や状況が変われば変わるものです。メンテナンスが要るのは欠点ではなく、当たり前のことになります。
この記事を見張っていたスキル
実はこのブログの記事も、AIがスキルを使ってチェックしています。blog-post-review という40行ほどの SKILL.md で、先頭には name と description があり、Agent Skills の仕様と同じ形です。
ただ、中身に手順らしい手順はほとんどありません。書いてあるのは「『結論から言うと』と書かない」「勤務先の名前を出さない」「最後は本当のオチで終える」といった、私のルールばかりです。どれも、私がAIの書いた記事にダメを出した点です。
この記事も公開する前にそのスキルを通っています。冒頭に「結論から言うと」がなく、最後にこうしてオチを付けているのも、そのスキルに書いてあるからです。どれだけ賢いモデルが出てきても、私が「結論から言うと」を嫌いなことまでは、自分では覚えてくれません。