GMO会見のAIの話は、本気か目くらましか。私の答えは「どちらとも言えない」
GMOインターネットグループの熊谷正寿代表が、11月2日の記者会見で語ったAIの話は、誠実な説明だったのでしょうか。それとも論点をそらす目くらましだったのでしょうか。私の答えは「どちらとも言えない」です。そう考える理由を書いていくうちに、会見の中身よりも気になることが出てきました。
謝罪会見が、途中から「AIの話」になった
会見は11月2日の午後3時半過ぎ、東京都内で始まりました(NHK)。熊谷代表は謝罪したうえで、サービスのシステムにセキュリティ上の問題があったことは事実だと認めています(読売新聞)。2024年4月にグループ内の専門家から課題を指摘されていたのに、サービスの運営に生かせなかったことも認めました(日経新聞)。
AIの話も出ました。日経新聞の要約によると、攻撃者はAI技術にいち早く適応し、サイバー攻撃は「拳銃から機関銃に進化した」。急増する情報漏えいなどの混乱は「まだプロローグでしかない」という内容です。
Xでは、この部分への違和感を書く視聴者が目立ちました。「記者会見(謝罪会見)だと思って見てたらAIの講演会始まってて草」(@sue__husk)、「GMO記者会見第二部、熊谷社長によるAIエージェントセミナーみたいになってる。」(@kamimochi_2101)といった具合です。これらは個々の視聴者の感想で、AIの話が何分あったのかを示した報道は、私が調べた範囲では見つかりませんでした。数字は出しません。
一方で、ITmedia(アイティーメディア)は10月26日の記事で、今回の攻撃にAIが使われたとする根拠は示されていない、と指摘しています(ITmedia)。
AIの脅威そのものは本物の話題です。ただ、今回の事件にAIが関わったことを示す根拠は、私が調べた範囲では示されていません。どちらにも決め手がないので、私は「どちらとも言えない」としか答えられません。
何が起きたのか。9割9分の人には、たぶん伝わっていない
私の実感では、世の中の9割9分の人は、この事件で何が起きて、何が問題だったのかを、まだ理解できていません。ITに詳しくない人に経緯を説明しようとすると、ソフトウェアがどうやって作られ、どうやって動き、どうやって守られているのかまで話さないと通じないからです。
そこで、報道されている範囲で、なるべく平易に書き直してみます。
- 対象になったのは、FX(外国為替証拠金取引)の自動売買に使われるVPS(インターネット上に借りる、自分専用のパソコンのようなもの)です。利用者は取引口座のIDとパスワードを入れて使っていました(ITmedia)。
- 産経新聞によると、副社長の説明は次のとおりです。8月5日、リモートデスクトップ(離れた場所から画面を操作する仕組み)から侵入され、管理者アカウント(全体を管理できる鍵のようなもの)を盗まれました。続いて管理サーバーに入り込まれ、9月20日から10月14日にかけて、ほかの顧客のVPSにマルウェア(悪意のあるプログラム)が配られました(産経新聞)。8月5日という日付は、私が確認できた範囲では産経だけが報じています。
- たとえるなら、マンションの管理人の合鍵を盗まれ、入居者の部屋に勝手に細工をされたような話です。
- その結果、サーバー内の取引口座のログイン情報などが第三者に取られ、不正な取引で資産被害が出ました(ITmedia)。影響しうるサーバーは最大2万6739件です(日経新聞)。金融庁の片山大臣は、FX業者5社から顧客の被害報告があったと説明しています。被害額と件数は公表されていません(財務省)。
これだけ説明して、ようやく「ではAIはどう関わるのか」という話に入れます。AIがソフトウェアの作り方も攻め方も守り方も急激に変えている、というところまで話さないと、この事件の本当の重さは伝わりません。会見のAIの話が長かったとしても、それだけで空回りだったとは、私は言い切れないのです。
私が本当に怖いのは、北朝鮮がAIを手にしていること
北朝鮮の関与は確認されていません。共同通信は11月1日、GMOが攻撃側に北朝鮮系のハッカー集団がいる可能性が高いと分析していると、関係者への取材で報じました(Yahoo!ニュース(共同通信))。同じ記事には、専門家が調査をかく乱する偽装(偽旗作戦)の可能性を指摘していることも書かれています。TBSによると、GMOの幹部は、関係している可能性を含めて調査していると取材に答えています(TBS NEWS DIG)。政府は、木原官房長官が10月20日の会見で、確固たることを申し上げる段階にはないと述べました(FNN)。この発言は一連の国内攻撃全般への答えで、GMOの件が公表される前のものです。
つまり、北朝鮮が犯人だとはまだ言えません。AIを使ったのかどうかも、先に書いたとおり今回の件では未確認です。
事件のあとに攻撃者が出した文面は、日本語としてどうだったのでしょうか。私の印象では、違和感なく読める日本語が多く、AIだけで書いたとは思いにくいのです。ただ、報じられている内容は私の印象と食い違う面もあります。セキュリティ対策Labの分析は犯行声明サイトの日本語に、送付先を並べた箇所の不自然な一文のような「局所的な破綻」があり、経緯を説明する箇所は破綻のない丁寧な長文だったと指摘しています。複数人での分担や、翻訳・文章作成ツールの併用がうかがえる、という見方です(セキュリティ対策Lab)。サイトのソースコードのメモ書きに日本語があった件は、IIJの担当者が「現在はAIで翻訳でき、ただちに攻撃者が日本語を使う人物かは分からない」と述べています(産経新聞)。日本ハッカー協会の杉浦隆幸代表理事は、ITの知識が少しある素人が、AIに聞きながら進めている可能性が高いと見ています(関西テレビ)。日本語の質だけでは、誰がどう書いたのかを決められないのが実情です。
それでも、一般論としてなら、根拠はあります。Microsoftは10月29日、北朝鮮系の攻撃者全体のAI活用度を「高い」と評価しました。一部の集団は作戦のあらゆる工程でAIを使っているそうです。ただし、AIを使った作戦も人間が指示を出していて、完全な自律にはなっていない、とも書いています(Microsoft)。Anthropicは2025年8月の報告で、北朝鮮の工作員がAIで偽の経歴を作り、米国の大手テクノロジー企業にリモートで就職していた事例を明らかにしました(Anthropic)。Microsoftは同じ報告で、北朝鮮系の活動の主な目的を、政権の収益の確保と戦略的な情報の収集だと説明しています。
ここからは、私の考えです。今回の北朝鮮の関与はあくまで可能性にすぎません。ただ、今後は十分な危機になりうると思っています。北朝鮮という国が脅威だったのは、以前からでしょう。私がそれ以上に怖いのは、彼らがAIという新しい兵器になりうるものを手に入れ、実際に使えてしまっていることです。核開発は脅しのための道具ですが、AIは違います。実際に被害を出すことを、彼らはまったく問わないのではないかと私は思っています。
文面の印象も合わせて考えると、これまでと同じように、国ぐるみのスパイ行為の延長にあっても、おかしくはなさそうです。もちろん、これは確認された事実ではなく、私の見立てです。
表の大事件の裏で、もっと大事なところが抜かれていたら
もうひとつ、これも私の推測です。根拠のある話ではありません。
今回のGMOの件はたしかに大きな事件です。ただ、その裏で、もっと重要なデータが抜かれていたとしても、私はおかしくないと思います。もっと大事な機関から、すでにデータが抜かれていた、ということもありうるはずです。国ぐるみの活動の延長なら、お金は目的の一部にすぎず、本当にほしいデータは別にあった、という筋書きも考えられます。
そう考えるきっかけになった事実は、ひとつあります。山下副社長は会見で、攻撃を確認できたのは顧客の問い合わせを調べた10月20日で、それまで気づけなかったと述べました。「サービスの監視で気づけなかったことを深く受け止めている」という発言も報じられています(ロイター)。
「拳銃から機関銃」の時代に、最初に異変に気づいたのは、監視ではなくお客さまの問い合わせでした。
抜かれたことに気づけなければ、抜かれていないとは誰にも言えません。