クリーム色の背景に、タイトル「詐欺師が潜む国フィリピン。日本と違うのは"諦めさせる額"だった」。右側には、ペソの小さな硬貨と困った顔の人物、円の札束の高い山、警告マークつきのスマートフォンの吹き出しの線画

詐欺師が潜む国フィリピン。日本と違うのは"諦めさせる額"だった

フィリピンは、詐欺師がそこらじゅうにいる国です。日本との違いは、被害者が「これくらいなら」と諦めてしまう金額にあると私は考えています。

だから、怪しいメッセージを貼ると詐欺っぽさを判定する非営利ツール「Budol Bantay」を作りました。公開は2026年10月30日の早朝(マニラ時間)です。名前は仮で、正式名称は決まっていません。

成人の84%が詐欺に遭う国

GASA(Global Anti-Scam Alliance、国際詐欺対策同盟)の2026年の調査では、成人の84%が過去12か月に詐欺に遭っていて、1人あたり年に平均151回でした。1,160人へのアンケートからの推計で、公式な集計ではありません。

詐欺に遭った場所は、回答者の58%がFacebookと答えています(Inquirer)。毎日開くSNSが、そのまま入口になっているわけです。

日本と違うのは「諦めさせる額」

日本の特殊詐欺(オレオレ詐欺など)は、一度に大きな額を狙います。警察庁の2025年の確定値では、既遂1件あたり約523.6万円でした。

日本とフィリピンの詐欺の数字を並べた図。日本は警察庁の令和7年の確定値で、特殊詐欺は既遂1件あたり523.6万円、SNS型投資・ロマンス詐欺は1,213.3万円、特殊詐欺の認知件数は27,832件。フィリピンはGASA 2026の調査ベースの推計で、成人の84%が過去12か月に詐欺に遭い、年に151回、お金を失った人の平均損失は₱10,427

フィリピンの調査で、お金を失った人の平均損失は₱10,427(₱はフィリピンペソ)です。ただし平均値で、集計方法も通貨も日本とは違います。比べられるのは傾向までです。

手口にも小ささが出ます。SEC(フィリピン証券取引委員会)が警告するタスク詐欺は、₱500を払って₱1,000分の仕事を受けるところから始まります。

しかも、届け出る人はごくわずかです。当局に届けたのは全体の4%、お金を失った人でも29%です。DOJ(司法省)の担当者は、被害者が起訴の直前に「napatawad ko na(もう許した)」と手を引くことがある、と話しています(Rappler)。

フィリピンで被害を当局に届けた人の割合。回答者全体で4%、お金を失った人でも29%。DOJの担当者は、被害者が起訴の直前に「もう許した」と手を引くことがあると話している

売り買いされたアカウントは、見た目では本物と区別がつかない、と私は思っています。FacebookでGCash(フィリピンで広く使われている電子決済アプリ)のアカウントを売っていた7人が、2024年に摘発されました。捜査したのはNBI(国家捜査局)です(Philstar)。

相手で見分けられないなら、せめて届いたメッセージの中身だけでも確かめられる道具が要ると考えました。

貼るだけで判定する仕組み

怪しいSMSやMessengerのメッセージを貼って「I-check」を押すと、詐欺っぽさ、その理由、取るべき行動が出ます。Taglish(タガログ語と英語がまざった言葉)でも判定できます。

判定は2段構えです。リンクや急がせる文句、OTP(SMSで届く使い捨ての確認コード)の要求などをルールで調べ、そのうえでAIにも聞きます。AIに送るのは、電話番号などを伏せたコピーだけです。

構成は、GitHub Pagesの静的サイトと、Go言語のAPIです。このAPIは、あとからMessengerのボットにも使えるかもしれません。

無料枠に収めて、測って選ぶ

AIはCloudflare Workers AI(Cloudflareが提供するAI実行サービス)の無料枠だけで動かしています。無料枠は1日10,000 neuron(使用量の単位)で、余裕を見て上限を8,000にしました。使い切ったらルールだけの判定に切り替わるので、請求は発生しません。

濫用に備えて、IPアドレスごとの回数制限もつけました。CORS(別のサイトからのAPI呼び出しを許すかを決める仕組み)は、許可したサイトだけを通します。

モデルは、架空のTaglishメッセージ20件(詐欺11件、正常9件)で測って選びました。

AIモデル7種の比較。正解率と1日の回数は、ルールだけが70%、gpt-oss-120bが100%で93回、gpt-oss-20bが95%で276回、gemma-4-26bが100%で146回だが遅すぎる、sea-lion-v4が90%で132回、qwen3-30bが75%で242回、llama-3.1-8bが85%で273回

採用したのは、いちばん大きいgpt-oss-120bです。20件すべて正解で、1回に約85 neuronなので、1日に約93回動かせます。95%だった小さいgpt-oss-20bは、バックアップにしました。

意外だったのは、東南アジア向けに調整されたsea-lion-v4です。90%で、銀行のOTP通知まで怪しいと判定しました。gemma-4-26bは100%でも、判定に中央値で33秒かかり、実用になりませんでした。

ルールだけだと70%でした。ただ、この20件はルールが苦手なものを多めに選んであり、全59件では83.1%です。小さな試しの結果でもあります。

完璧ではないと、結果の横に書く

結果の隣には、いつも注意書きを出しています。日本語版は「このチェックは完全ではありません。迷ったときは一人で判断せず、家族・友人・信頼できる人に相談してください」です。タガログ語と英語でも同じ内容を出し、利用規約も3言語で用意しました。

個人の連絡先は載せていません。「うちに問い合わせられてもなぁ」というのが正直なところです。意見や不具合は、GitHubのIssuesで受け付けます。

詐欺に遭ったときの届け先も案内しています。CICC(フィリピンのサイバー犯罪対策機関)のホットライン1326、PNP ACG(国家警察のサイバー犯罪対策部門)、銀行や電子決済アプリの公式サポートです。

ソースコードはGitHubにMITライセンスで置きました。公開前に、載せてはいけないものがないか、一通り確認しています。

優しさにつけ込むもの

20件で100%を出したAIを載せても、結果の横には「人に相談を」と書きました。困ったら周りに聞きます。この一言は、フィリピンの支え合う文化と同じ向きだと私は思っています。

PSA(フィリピン統計庁)は、2025年の貧困率を過去最低の9.7%(家族では6.4%)と発表しました(GMA)。ところが世論調査機関SWSでは、2026年9月に55%の家族が自分を「mahirap(貧しい)」と答えています(SWS)。

公式の貧困ラインは、1人1日₱96ほどです。研究機関のIBONは「非現実的に低い」と批判しています(IBON)。

公式の貧困率と、人々が答える貧しさの比較。公式統計(PSA、2025年)は家族6.4%、個人9.7%。自己評価では、自分を貧しいと答えた家族がSWS(2026年9月)で55%、OCTA(2026年7月)で39%、食べ物が貧しいと答えた家族がSWSで44%、飢えを経験した家族がSWSで22.6%。公式の貧困ラインは1人1日₱96ほど

支え合う文化から生まれた優しい国民性に、つけ込む詐欺は許せません。ただ、その背景に貧困や格差があることも、また事実です。

少額の詐欺で、騙す側も騙される側も貧困層。この悲しい状況を打破できる日は来るのでしょうか。